1980年代後半、日本はバブル絶頂にありました。お金がお金を呼び、日本全体が異様な熱気に包まれ、不動産に関しては買えば必ずその価格が上がるという「土地神話」という言葉まで生まれた時代でした。
しかし、土地関連の融資抑制策がとられたことに端を発し、音を立てるようにバブル経済は崩壊していきました。その後、「失われた10年」と揶揄されるように日本経済は一転して不況期に突入していきます。1990年代後半、停滞する不動産流通を活性化させるための国策として、本格的に整備されたのが不動産の証券化であったのです。
不動産の証券化と不動産投資信託のメリット
証券化とは、「財産的に価値のある権利や義務を、文書化して流通させること」をいいます。
株式や債権がその代表格ですが、「不動産の証券化」とは不動産が本来持っている価値を、購入と売却により発生する差益(キャピタルゲイン)と賃料で得られる経常益(インカムゲイン)に分類し、小口化・細分化することで証券化することをさします。
こうすることで、投資単位が大きな不動産も取扱いしやすくなったり、出資者が管理業務などの手間から解放されたりする、など様々なメリットを見出すことができるようになったのです。
上で説明した不動産の証券化を駆使して、多数の投資家より出資を募り、単一又は複数の不動産から組成される金融商品を「不動産投資信託」といい、日本で最も有名な不動産投資信託をJ‐REIT(Jリート)といいます。
このJ‐REITの仕組みは、実際に不動産を保有し運用する会社(投資法人)が公開市場で多数の投資家から資金を集め、その不動産から得られた収益を個々の投資家へ分配していくというものです。
プロである投資法人が投資の対象となる不動産の選択をリスク分散しながら選択していくため、非常に安全度が高い投資方法になります。
また、J‐REITの投資法人には倒産隔離機能が備わっており、倒産の影響は投資家には及びません。これは、元本保証がされるという意味ではなく、出資以上に損失責任を負ったり、倒産によるその他の負債を抱えたりすることがないという意味です。
(もちろん投資である以上、投資した金額を上限とした範囲において、損をする可能性はあり得ます。)
また、J‐REITは信託法等の様々な法令規制に基づき、金融商品を扱うにあたっての厳格なルールのもと運営がされています。投資法人には逐一、主務官庁に対しての報告義務などが課せられており、不正などの考慮外のリスクは極めて低いと言えるでしょう。
分かりやすい表現をすると、株式市場にいう上場株式のような位置づけがJ‐REITなのです。ブランド化された様々な銘柄を上場株式のように証券会社を通じて、簡単かつ安全に購入することができます。
このように、「小口化・細分化された出資が可能であること」、「手続きの手軽さ」、「安全性」が不動産投資信託の大きなメリット・魅力といえるでしょう。
不動産投資信託のデメリット 不動産投資の醍醐味があまり味わえない
このようによいこと尽くしのように思える不動産投資信託ですが、反対にいえば、ローリスク・ローリターンの商品であるともいえます。
というのも、投資法人の個々不動産への投資手法はポートフォリオというリスク分散型の組み合わせ方式になっているため、個々の不動産の長所や短所を打ち消しあいながらトータルで僅かな利益をコツコツと上げていく仕組みになっているケースが多いのです。
こうしたことから個々の投資家は不動産への出資を行っているという実感は乏しく、単なる利回りの数字だけが投資基準となっている感が否めません。そのため、本来の不動産投資の醍醐味はあまり味わうことができません。
ある程度大きく中期でのリターンを考えているのであれば、ご自身で不動産投資を行う方が良いでしょう。不動産投資は現物に出資する形態のため、証券のようにある日突然価値が0になってしまうことはまずあり得ませんし、仮に価値が下がっても現物であるモノは残ります。同じ不動産への投資でも不動産投資信託とは大きな違いがあるといえます。ご自身の状況に適した資産の運用方法を検討しましょう。